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『トリスタンとイズー』

 少し前に知人と2024年バイロイト音楽祭でのオペラ「トリスタンとイゾルデ」の話題になった。一度はあちらで見てみたい。そのためにストーリーをちゃんと知りたくて手にした美しい本(古本にて)。
 今回読んだのは、ローズマリー・サトクリフ著 井辻朱美訳(1994)「トリスタンとイズー」沖積舎。好みの語り口で翻訳や装丁も独特の雰囲気があり魅力的な版だ。(※井辻先生の翻訳の業績をあらためて知り読みたい本も増えた)

 ケルト伝説をベースとし、よく知られる愛の薬のモチーフがこの版では削除されている。

 ほんの数ページを取り上げてみても〝月のない深夜のような黒い髪〟〝ジギリタスの花のように赤くなり(77ページ)〝生かすも殺すもわたしの胸ひとつ‥氷の中の炎のようにきらめく目‥〟(80ページ)と何しろドラマチック。オペラになるだけにもちろんより印象的なシーンもあり、イメージが喚起されいそがしい。〝死にいたる愛〟にすっかり入り込んだ。

 いつも興味の向くまま雑多気楽に読んでいるが、こういった本との出会いがあるから読むことはやめられない。(2025年6月9日)