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『父のおともで文楽へ』



 お仕事訪問先医療機関の〝ご自由にブックス〟で譲り受けた伊多波碧(2020)『父のおともで文楽へ』小学館文庫。へとへとで疲れ気味だった目の前に折良くあらわれた本。

 ちょうど先日映画『国宝』を観に行き歌舞伎を含む芸術やっぱりいいなあと思っていた矢先。歌舞伎もよいし、文楽も好きだ。関西に住んでいると国立文楽劇場へのハードルは意外と低く、私もここ10年友の会会員になっている。

 本著、文楽へのいざないという意味でもするする読めた。特に文楽の世話物がもつ湿度や人間の普遍性について主人公があれこれ思い、生きていく。文楽→それを観る主人公(と主人公の父親達)→読み手、と3重構造の小説形式。主人公と父親との関係性も(私自身境遇が似ており思わずほろりとした)微妙な距離感から、お互い経験を重ねその関係性が変化していく。

 ただ、湿っぽさは少なくて読後感がとてもいい。作者の他の書籍も読んでみたい。
(2025年6月29日)