スティーブン・グリーンブラット アダム・フィリップス著 河合祥一郎訳(2025)セカンド・チャンス-シェイクスピアとフロイトに学ぶ「やり直しの人生」岩波新書新赤版
このところシェイクスピアを読む機会が増えた。やっぱり面白いのだ。シェイクスピアにおける回復物語のモチーフは様々である。例えばそこに「家族」の存在があり、失った自分を善かれ悪しかれ取り戻す(もしくは結果、永遠に失うことになる)。再読すると自身の年代やその時の課題によって、物語の読み方が結構変わることを興味深く思っていた。
本著では主に人生のセカンド・チャンス、やり直しについて述べられている。ファーストチャンスを掴むには、ある種の飄々とした無頓着さが条件、セカンド・チャンスは自分自身に対しての幻想を捨てることから。
そして、セカンド・チャンスは再考とも似ている。〝罪を贖い、おかしくなってしまった何かから救われ、自らを救う(270ページ)〟〝ないものねだりにもなりかねないセカンド・チャンスは、自分がまちがっているのかもしれないと信じられる人だけが手にできる〟(275ページ)とある。
シェイクスピアが悲劇を多く書き、その後ロマンス劇のような夢物語をなぜ書くに至ったか?自身にも劇にもセカンド・チャンスを与えたのだとグリーンブラットは分析する(グリーンブラット自身の人生も重ねながら)。フィリップスは、フロイトやウィニコット理論にセカンド・チャンスを当てはめ論じていく。
本書自体、河合先生のあとがきにもあるよう、読み返し(セカンド・チャンス)で理解できる書き方になっているように感じる。なお、再考・relume・revelationについて考え出すとやはりオセローや冬物語も読み返したくなるし、書かれた順にシェイクスピアを読み返すのも面白そう。
シェイクスピアやフロイトが示したように、我々の人生の多くはうまくいかないことから物語が始まる。私も、もう1ラウンドいけるのだろうか?(2025年7月5日)