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世界は経営でできている


岩尾俊兵(2024)世界は経営でできている
講談社現代新書


 書籍名からいかにも経営もしくは経営学の新書と思いきや、くすくす笑いながら読みすすめられる令和冷笑体エッセイ。笑ってしまうだけではなく狡知の概念となってしまった経営を、本来的意味の「経営」に立ち戻らせてくれる読み物でもあった。

 本書では、誰もが人生を経営する当事者という視点から、貧乏・家庭・恋愛・勉強・虚栄・心労・就活・仕事・憤怒・健康・孤独・老後・芸術・科学・歴史、と比喩をとおしてその意味が共有されていく。

 中でも〝憤怒は経営でできている〟章は興味深い。憤怒でなくとも怒りをいかに扱うかは、セラピーの中では重要テーマとなることが多い。また変化のうえで鍵となることもある。人生(もしくはそれ以上の長期視点)において、自身を経営してみる思考のヒントとなりそうだ。ひいては共同体の幸福にとっても。

 今では経営だと見なされなくなったものに「経営」を見出していく、人生経営の面白みに溢れた書だった。(2025年8月7日)