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ギンガムチェックと塩漬けライム 翻訳家が読み解く海外文学の名作


 鴻巣友季子(2024)ギンガムチェックと塩漬けライム 翻訳家が読み解く海外文学 NHK出版

 書籍名からして気持ちが上がる、翻訳家の著者による海外文学案内。その読み解きとプロによる名ガイド。普段わりとなんでも速読してしまいがちなのだが、この本は別。じっくり読んだ。

 時代背景と文脈、言葉と文法の丁寧な解説に「そんな意味をも含むのか!」と知ることも多かった(例えば、高慢と偏見(1813)。書き出しは18世紀イギリス哲学のパロディとか)。

 また『ロミオとジュリエット』章では、古典のもつ現代性に気づかされる。シェイクスピアは当時のパンデミック渦中にロミジュリ含む傑作群を書いたとのこと。古典と現代とがすっと結びつき想像が広がる。今ならたしかにロミジュリではなくジュリロミだったかも!

 そして随所にさらっと心理学的分析も挟みこまれていた。ネタバレなので多くは記さないが、息子と父を巡るテーマのタイプ分け(父殺し)含むあれこれ。

 よきガイド本であると同時に、読み手の自由な読書体験を後押ししてくれるそんな著書と感じる。文学作品を訳される方ならではの余白や照合の丁寧さ、言語や読者との波長合わせの技術がそう思わせてくれるのだろうか。(2025年8月8日)