クリストファー・ボラス/デイヴィッド・サンダルソン著 筒井亮太/細井仁訳(2024)こころの秘密が脅かされるとき 心理臨床における守秘義務と倫理の問題 創元社
再読。刊行されすぐに読み、その後も何度か読み返している著作である。米国出身の精神分析家クリストファー・ボラス、米国出身の控訴弁護士デイヴィッド・サンデルソン(精神分析学の教鞭もとる)による実務書(95年著)の翻訳本※。
本著では一貫して守秘義務の重要性が論じられる。が、話はそう簡単ではない。主に当時の米国動向の混乱や危機を含め5章より構成され、原註・訳註も読み応えがある。お国・学派・世代(30年前の著作)・法令、これらの違いを考慮するにせよ、現在本邦で信がおかれているチームビルディング・関係機関同士の連携について既に論じられており考えさせられる。
さて、まずはconfidentiality、伝統的に守秘義務と訳されてきたがこの語の訳註は見逃せない。
イントロダクションは心理臨床家の多くがよく知るタラソフ警告の判例より(訳註にある事実は寡聞にして知らなかった)。92年カリフォルニア州最高裁判決(メネンデス判例)の「相互不信と背信の雰囲気」(12ページ)さらっと語られているが??!と驚く。
そして2章「作成時欠席」、報告法の立法過程にサイコロジストや精神科医が欠席しており「守秘義務を保護する機会を逸した点を表している」(36ページ)。利益相反・法令遵守と倫理的葛藤、に関しては日本でも心理臨床各領域にて議論されるところであろう。
3章「秘密の喪失」は検討材料が多すぎるため、自分なりにあらためてノートにまとめ理解を整理しようと思う。
4章「情報提供者を創ること」は、現代の心理臨床業界に生きるものなら耳が痛い。本章は特に興味深く現代的課題と感じた。『正義』の前進「1960年代初頭の多様性と豊かな治療上の創意工夫がMFCC、ph.D.、L.C.、S.W.、の軍勢を生み出し、それらの軍団は自前の訓練を介して、驚異的なスキルと速度で進軍した」(93ページ)とある。プライベートサイコセラピストとソーシャルサイコセラピストの区分けが述べられるが128ページ内でよく理解できなかった部分があり保留。
最終章「秘匿特権を再建すること」、行動指針の具体的提案が示される。「記録と著作の適切な行末」(145ページ)では亡くなった分析家また引退間近の分析家の記録保存に関する責任の所在についても検討されている。
何らかの相反する利益問題や関係性の中で動く私にとってはとりわけ響く内容であり、そのため何度も読み返すのだろう。業務は法と切っても切り離せない。産業領域では「相手方弁護士が肩越しにいつも見ていると思って」とよく言われるのだが、どの先生の言葉だったか。(2025年8月20日)
※創元社note部にて刊行にあたり本著翻訳者「解題」部分が無料公開されているhttps://note.com/sogensha/n/n863826721651
再読。刊行されすぐに読み、その後も何度か読み返している著作である。米国出身の精神分析家クリストファー・ボラス、米国出身の控訴弁護士デイヴィッド・サンデルソン(精神分析学の教鞭もとる)による実務書(95年著)の翻訳本※。
本著では一貫して守秘義務の重要性が論じられる。が、話はそう簡単ではない。主に当時の米国動向の混乱や危機を含め5章より構成され、原註・訳註も読み応えがある。お国・学派・世代(30年前の著作)・法令、これらの違いを考慮するにせよ、現在本邦で信がおかれているチームビルディング・関係機関同士の連携について既に論じられており考えさせられる。
さて、まずはconfidentiality、伝統的に守秘義務と訳されてきたがこの語の訳註は見逃せない。
イントロダクションは心理臨床家の多くがよく知るタラソフ警告の判例より(訳註にある事実は寡聞にして知らなかった)。92年カリフォルニア州最高裁判決(メネンデス判例)の「相互不信と背信の雰囲気」(12ページ)さらっと語られているが??!と驚く。
そして2章「作成時欠席」、報告法の立法過程にサイコロジストや精神科医が欠席しており「守秘義務を保護する機会を逸した点を表している」(36ページ)。利益相反・法令遵守と倫理的葛藤、に関しては日本でも心理臨床各領域にて議論されるところであろう。
3章「秘密の喪失」は検討材料が多すぎるため、自分なりにあらためてノートにまとめ理解を整理しようと思う。
4章「情報提供者を創ること」は、現代の心理臨床業界に生きるものなら耳が痛い。本章は特に興味深く現代的課題と感じた。『正義』の前進「1960年代初頭の多様性と豊かな治療上の創意工夫がMFCC、ph.D.、L.C.、S.W.、の軍勢を生み出し、それらの軍団は自前の訓練を介して、驚異的なスキルと速度で進軍した」(93ページ)とある。プライベートサイコセラピストとソーシャルサイコセラピストの区分けが述べられるが128ページ内でよく理解できなかった部分があり保留。
最終章「秘匿特権を再建すること」、行動指針の具体的提案が示される。「記録と著作の適切な行末」(145ページ)では亡くなった分析家また引退間近の分析家の記録保存に関する責任の所在についても検討されている。
何らかの相反する利益問題や関係性の中で動く私にとってはとりわけ響く内容であり、そのため何度も読み返すのだろう。業務は法と切っても切り離せない。産業領域では「相手方弁護士が肩越しにいつも見ていると思って」とよく言われるのだが、どの先生の言葉だったか。(2025年8月20日)
※創元社note部にて刊行にあたり本著翻訳者「解題」部分が無料公開されているhttps://note.com/sogensha/n/n863826721651